とても近代的で、でもなぜかノルスタジックな匂いのする一軒家でした。 「奇妙な家ね。」 シンの胃の中で育った娘が言いました。その家にはほとんど窓が無く、白い長方形の箱のような形をしています。薄汚れた看板と磨りガラスのはめ込まれた引き戸が輝くまでに美しい漆喰の壁に不釣り合いにくっついていました。 シンの胃の中で育った娘が音符の描かれた焦げ茶色のボタンを押すと、扉の奥で気の抜ける電子音がしました。家主は旧式の呼び鈴を使っているようで、ボタン以外にはカメラもスピーカーも見あたりませんでした。 「君たち、だれ。」 引き戸を開けて、小花柄ののれんの奥から背の高い男の人が出てきました。顔全体に黒い髪がかかっていました。美しくつやのある黒髪でした。 「……足の治療をして欲しいの。」 シイが言いました。顔の見えない男は首を振って「ここは研究院だ。けがをしたなら救護所に行けばいい」と言って扉を閉めようとしました。 「参道のかどの花売りさんに聞いて来たわ。」 それを遮るようにシンの胃の中で育った娘が言いました。 「あなたが名医だって彼は言ったわ。」 顔の見えない男はすぐに戻ってきて「それは本当かい。」と聞きました。 「ええ、もちろんよ。」シンの胃の中で育った娘は言いました。わたしは嘘は吐かないわ、と言いかけてそれが嘘だと言うことに気が付いてやめました。 「本当に。俺があの人の知っている中で一番の名医だって言ったのか。」顔の見えない男がうわずった声で聞いてきました。 「ええ。あなたほど素晴らしい医者は他には居ないと聞いた……ような気がするわ。」シンの胃の中で育った娘は否定すると面倒なことになりそうだったので嘘を吐きました。 「俺は山崎。君たちは、だれ。」 顔の見えない男は言いました。
「わたしはアーヴ。」 シンの胃の中で育った娘は言いました。 「……シイ。」 シイはやっと聞き取れるかというほどのコエでつぶやきました。 「アーヴとシイ?」 顔の見えない男が繰り返しました。 「いいえ、アーヴ。」 「……いえ、…シイ。」 「アーヴとシイ?」 「別にそうでもいいわ。」 「……そう。」 「俺にどの怪我を治して欲しいんだい。」 「シイの左足を。」 「入って」
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