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ようやく終わりです 長い一人妄想におつきあいくださったみなさまありがとうございました!
向かい合う二人の兄弟、乾いた熱風が広いグラウンドに吹き落ちる チクチクとうずく肩を無視して零人は腕を振り上げた 「お前にだけは・・・負けられないんだよ・・・!」 竜太は無心でバットを構え、その球を待つ ゆっくりと、ビデオをコマおくりするように零人は大きな円を描いた ・・・その時・・・ ぎゅうっ、と彼の筋肉が黒く恐ろしい力に引かれる・・・! 全身から奪われる体温、引き抜かれた魂 臨界点を超えたサイバーナックルはついに彼の固まった指からすっぽ抜け ぬけがらは風船のようにふわりと飛んでいった ど真ん中への大失投、である! 自分の体に裏切られ驚愕の表情の零人、だが竜太はそれを見もせずに すうっ・・・と綺麗なフォームでバットを振りぬいた・・・ くあーーーーーーーーーーーーーーーーーーん・・・!!! 高い空にまいあがる白球、風に流れ鳥のように飛んでゆく さえぎるものなくぐんぐんと伸びて、やがてそれは小さな光の粒となってきらめき消えた サヨナラ、ソロホームラン、ゲームセット ・・・一瞬の静寂の後に揺れるような大歓声 ごう、ごうと渦巻く津波の音が、その坩堝にいながら遠ざかってゆく すべて、おわった 竜太は音のない世界で、ただ光の中立ち尽くしていた ぼやけた目でベンチを見ると監督が「マワレ」と口を動かしている ロボットのようにギクシャクと足を動かし、ふらふらとベースを回りだす竜太 からっぽのココロに誰かの声が響く、低く力強いその暖かな声は もうずっと聞いていなかった気がする、親父の声 「よくやったな竜太」 ああ、やはり死んでしまったのか・・・わかってはいたことだったが ここでようやく竜太は親父の死をあらためて受け入れていた 「辛い戦いも、よく逃げずに立ち向かった。お前は強くなったよ・・・もう、大丈夫じゃろう」 「・・・俺、強くなんかないよ、いかないでくれ・・・一人じゃダメなんだよ・・・親父」 切ないテレパシー、ザクザクと土を踏みながら、ベースをのろのろとめぐる すると親父の後ろから、もうひとつの優しい声が届いてきた 「あなたはひとりじゃないわ」 はっとして顔を上げる、滲んだ涙目に映るのは、柔らかに微笑む遠い日の母と父だった 幻は陽炎に溶けて消える、その向こうには眩しいホームベースと手を大きく振り 彼を呼び待つ仲間達が・・・! みっともなく鼻水ダラダラ号泣する竜太、この夏最高に頑張った格好悪いヒーローは 足をもつれさせながら、みんなのところへ走っていった・・・
誰も笑わない表彰式・・・うつむいて泣いてばかりのキャプテンのかわりに 監督がメディアの取材に答えているのを瑠璃花達は商店街で見ていた 借金取りの男が感心して思わずうなる 「ボウズやったな、本当に約束守りおった・・・」 男は「自分も男や、こちらも約束は守るで」と言うと瑠璃花におめでとうの伝言を頼み、すぐに去ってしまった 残された少女は彼にお辞儀をすると再びTVを向いて小さな勇者を静かに称える 「おめでとう・・・そして、ありがとう・・・」 夕暮れのアパート、キッチンから立ち上がる暖かな味噌汁の湯気 ボロボロの姿で帰ってきた竜太を瑠璃花は精一杯の笑顔でお迎えした 「おかえりなさい」 疲れて呆けていた竜太は、彼女の無事を確認すると安堵で最後の涙をこぼす 少女が無性に愛しくて、その笑顔を残せたことが嬉しくて ドアを開け放したまま玄関で飛びついて抱き倒した 嗚咽をもらし、ぎゅうぎゅうしがみつく、もう本当にかっこ悪い姿だったが 真っ赤になりながら瑠璃花も彼の背中に手を回し、そのぬくもりを確かめ 深い幸せのため息を吐くのだった・・・ 長い戦いが終わった それからしばらくして・・・夏休みも終わるという頃、竜太は新しく建てた父の墓参りに来ていた なぜか宿敵水木と一緒に・・・ 水木は竜太から事の真実を聞き複雑な気持ちでいた 「まさか静と血がつながってないとはな、どうりで可愛くないわけだぜ」 「可愛くないならほおっておいてくれよ、いつまで俺に付きまとう気だよ」 竜太を茶化すが突き放された水木は、元気のない甥っ子をみてやりきれなくなり仏頂面でそっぽをむく (ちぇっ、あっさりいっちまいやがって寅蔵のやつ・・・ やっぱ腹たつから死んでも謝ってやらねえ!) そこへ険悪な空気の間を割って入るように、零人がやってきた あれから数週間しかたってないのに、ずいぶんと大きくなった気がする どうしてここに、と竜太が聞くと彼は別れの挨拶にきたと言った 竜太と戦いまだまだ自分の力不足を感じた、だから野球の本場アメリカにいって修業してくるという 「メジャーデビューして活躍して、うんと力をつけたら僕はまた日本へ帰ってくる そうしたら次はプロ野球で勝負しようぜ!」 「なんだお前メジャーまでいって帰ってくるのかよ!」 「あたりまえだろ、君は僕の世界最高のライバルなんだからな!」 なんという野球馬鹿、と笑う二人・・・拳をぶつけ合って少年達は再会の約束を交わした
それじゃあな、と去ろうとする零人に竜太は最後質問をする 「昔お前に双子の兄がいたっていってたな?」「ん?そうだけど・・・それがどうかしたのか?」 竜太は一瞬迷った後、なんでもない、と笑い別れた それを見ていた水木が本当のことを話さなくてよかったのかと聞く お金持ちの才葉の家へ入ればこれから楽な暮らしができるというのに・・・ 墓地をでていく零人の車を見送りながら、まじめな顔で答える竜太 「あいつは世界最高のライバル、それ以外のなんでもない そして俺は親父と母さんのただひとりの子供、不屈竜太だということに変わりはないんだよ これからも、ずっと・・・」 水木はそれを聞くとほっとしたように笑った、少年の本当の名前はもう教えることもないだろう 「そっか、じゃあお前これから俺のことは水木おじさまって呼べよ、静の子供なんだからな」 「うげっ、絶対に呼ばない!死んでも呼ばない!」 「なんだと!?このクソガキ!」「大人気ないおっさんだな!じゃあ勝負だ!」 いつしか二人、大きな声で笑っていた・・・ 竜太は花瓶の花を整えると、手をあわせ立ち上がる (まだまだ寂しいけど、なんとか頑張っていけそうだよ親父・・・ 天国から見ててくれ・・・俺、絶対にプロになるからな・・・!」 そしてアパートでは・・・すこしやつれていたが瑠璃花の母親が帰ってきて 親子は数ヶ月ぶりの再会を喜び合っていた おばさんは瑠璃花に「頑張ったわね」と頭を撫でて褒めてあげると 緊張の糸が切れたのか少女はわっと泣き出した、子供だけでよく健気に耐えたものである あれから借金取りはおばさんを解放したあと、父の会社をのっとった悪い人たちから お金を回収しにむかったらしい・・・会社の運営権も南雲家のところへ戻ってきたと言う 瑠璃花は竜太にも母が帰ってきたことを伝えようと壁の穴をくぐりにいくが 何も知らない娘におばさんは驚いた 「竜太君はついさっき入れ違いで出て行ったわ、家の都合で引っ越すことになったのよ 知らなかったの?」「・・・えっ!」 びっくりする瑠璃花、寝耳に水だった・・・そんなこと昨日一言も言わなかったのに きっと別れが言いづらくて内緒ででていったのだろう おろおろする少女におばさんは早く追うように言った 「今ならまだ間に合うかもしれないわ、瑠璃花は竜太君にまだ伝えてないことがあるんじゃないの?」 いきなさい、と背中を押す母・・・瑠璃花は一度だけ振り返ると駅まで全力で走り出した!
「なにも言わないでいっちゃうなんて・・・そんなのダメだから!竜太の馬鹿!」 か細い手足を千切れんばかりに振り走る瑠璃花、このままでは追いつかない 必死に坂道を登っていると、途中どこかで見たような自転車に乗った中学生とすれ違う 目があうと向こうの少年が話しかけてきた 「あれ?君たしか竜太の友達の・・・一体どうしたんだ、そんなに急いで」 それは以前ガンバーズでキャプテンをしていた一堂だった、事情を話すと彼は自転車の荷台を空け 瑠璃花を乗せてくれることに・・・下り坂をギュンギュンといっきに滑り降りていく二人 瑠璃花は一堂の背中にしがみつきながら、携帯電話を借りるとチームメイトの家へ連絡をまわした まずクラスメートの徳川にかける、彼も引越しのことを聞いていなかったらしく驚いていた 「オラも駅にいくでゴワス!間に合ったら南雲どんがくるまで ぶちかましてでも竜太を止めておくでゴワスよ!」 全員に連絡が行き届いたか・・・というところで自転車は空き缶につまずき大きくはねあがる! ガシャーンと派手な音をたてひっくりかえる二人、一堂は瑠璃花に先にいくように言った 「ありがとうございます!」 彼女は振り返らずにお礼を言うとまたパタパタと走り出した・・・ 駅では大きなリュックを背にした竜太が水木と一緒に電車を待っていた 誰にも何も告げずに出てきた竜太に水木は「本当によかったのか」と聞く 会うと別れが辛くなるから、と少年が改札をくぐろうとしたその時・・・彼の名前を呼ぶ声が・・・ 「竜太くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」 そこへ凄いスピードで飛び出してきたのは俊足選手の真薄だった! 小さい体で竜太に抱きつくと、いつものポーカーフェイスをくしゃくしゃに崩して哀願する 「いっちゃやだよ!なんで僕たちをおいてくのさ!」 突然のかわいこちゃんの登場に驚く水木と困ったように慌てだす竜太 そこから連絡をうけやってきたチームメイト達がぞろぞろ集まる 無田はいきなりグーで殴りかかってきた! 「親友のオイラに何も言わないなんて、最低でやんす!」「ちょ、待ってくれ無田君!悪かったよ!」 みんなも取り囲んでキャプテンをぼこりだす、手荒い彼らなりの送迎だった 竜太は落ち着くと服の埃をはらいみんなにちゃんと説明をする 親父が死んで身寄りがなくなった自分は、水木の実家に引きとられるようになった事 自分には野球しかないから、これから水木についていってプロを目指す事を熱く話した ぶるぶると震えながら「本当に竜太君は野球馬鹿でやんす」と強がる無田 「絶対・・・プロになるでやんすよ、オイラも必ず野球選手になってみせるでやんす! そうしたら・・・グスッ、また一緒に戦うでやんすー!」 各々挨拶をかわし握手で別れていく、「頑張れ」を合言葉に再会を約束して 水木が時計を指して出発の合図をした、もう時間である とうとう瑠璃花はまにあわなかった・・・少し残念そうな竜太 手を振り見送る仲間達・・・ドアはしまり電車はゆっくりと動き出した・・・
瑠璃花は走っていた、風にまかれくしゃくしゃになった髪を振り乱して 途中で汗だくの徳川を追い越していく、ようやく駅が見えてきた 瑠璃花を見つけて残念そうな顔をむけるチームメイト達、それでもまだ諦めない パンパンに固まった足で、はちきれそうな心臓に鞭打って 切符も買わずにホームへ突っこむ! 鳴り響くベルの中、瑠璃花はついに彼を見つけた 電車の窓からこっちを見ている、驚いた顔の竜太 目の前を通り過ぎようとしている少年に、瑠璃花はあらんかぎりの声を振り絞って叫んだ! 「竜太ぁーーーっ!私、あなたのことが・・・大好きだったわーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 大きくつまづいて転ぶ瑠璃花、膝が破れて血が滲みだす そんな痛みすらどこへやら!彼女はたちあがり、なおも走った 「−−−−−−−−−−−−−−−−−!」 二回目の叫びはもう言葉にならなかった、それでも肺中の空気を使って鳴いた それは心からの素直な想いだった ガタガタうるさい車輪と鉄の音に混じって、遠くから透き通った竜太の返事が聞こえてくる 「・・・俺もだ!・・・瑠璃花のこと、大好きだよ・・・!」 小さく消えていく彼の顔は・・・笑っていた 電車はやがて見えなくなり、静かになった線路の上を秋風がすべってゆく はあはあと息をきらしてホームの端でたたずむ少女 「・・・頑張ってね、きっとプロ野球選手になってね・・・ 私も・・・頑張るから・・・あなたを支える力になれるように・・・!」 晴れ晴れとした空の上、天国ではその熱い光景をドキドキしながら眺めている三人がいた 頭にわっかをつけた親父と静とわんこである 「あいつら・・・みせつけてくれるのう」「ふふ、うまくいくといいわね、あの二人」 「うう、瑠璃花うそつき・・・やっぱり竜太のこと好きだったんだね・・・」 うらやましそうな目で下界を覗き込むわんこに静は「わかっていたくせに」と笑う 「わかってたけど悔しいなっ!」 そう言ってはいるが彼女の顔にはもう悲しさはなかった わんこは「よし」とたちあがると足を伸ばす、どこにいくかと尋ねると もう生き返るための準備を始めるのだと言った 「もう少しのんびりしてけばどうじゃ?」と親父は勧めるが・・・ 「みんなを見てたらうずうずしてきちゃったの!今からいけばまだ 同じ時代に間に合うかもしれない!じゃあ、いってきまーす!」 にっこにこの笑顔で走り出すわんこを、ほほえましく見送る夫婦 「子供は元気じゃのう・・・当分竜太達の世界は面白いことが尽かなそうじゃな」 「ええ、そうね・・・頑張れ頑張れ、ガンバーズ・・・!」 アニメパワポケダッシュ、これにて終わりでございます! 読んでくださったみなさまありがとうございました!
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