異常気象(仮)〜savaと総の交換日記〜
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花はいつか散る はらはらと音もなく 僕はいつからか散ることだけをずっと考えていた 花の盛りに散ることをだけ 春の朝は誘惑に満ちている。暖かすぎず寒すぎず、差し込む朝日の光さえも柔らかくて瞳を開ける手助けにはならない。僕は毎朝ささやかな抵抗をするけれど、この誘惑には勝てたためしがない。 せめてもう一度だけ布団の柔らかい感触を確かめてから起きようと寝返りを打てば、その僕の行動をたしなめるように、コツン、と固い感触が手に当たった。 昨日までは無かったこの感触を何だったか思い出せないまま、また夢の国へと堕ちかけようとしていた僕に、その固い物体はきちんと職務を果すべく自己主張を開始した。 ピピピピッピ!! 「う、うわっ!」 その聞き慣れない大音量に思わず飛び起きてしまった僕は、ころころと布団の上を走り回っている音源である憎たらしい物体を思わず手刀で引っ叩こうとして――寸前でどうにか手を止めることに成功し、丁寧に捕まえて頭の上に嫌がらせのように小さくついているスイッチを押した。 ピピピピ!!!……ピタッ 「危ない危ない・・・壊したら大変・・・」 この働き者には車輪がついていて、スイッチを止めない限り逃げ回る仕掛けになっている。 布団の上で捕まえられたのはラッキーだったのかもしれないな・・・ そんなことを思いながら、まだぼんやりとする視界で部屋を見渡せば、壁にかけてある制服と机の上に置いてあるカレンダーとが目に入って来た。 ――先輩も、これなら起きられるかと思って―― そう笑いながら彼女がこれを渡してくれたのは、昨日のこと。 ことん、と真新しい目覚まし時計を枕元に置いて、うーん、とひとつ大きく伸びをすれば身体の隅々までぴかぴかの光が差し込むような、そんな気がした。 ◇ つづきます
「あらすごい!眠り王子が自分から起きてきたわ」 「奇跡ですねえ」 リビングに起き出して行けば、両親からそんな声をかけられた。 「…第一声が、それ?」 がくりと大袈裟に肩を落してみせる僕に、彼等はくすくすと笑う。何事もなくいつものように。 「なーに言ってんのよ。年中『春眠暁を覚えず』の人が」 「うーん…朝が来たことくらいは分かってるんだけど」 溜息を吐きながらダイニングの椅子に座れば、すっと湯気のたったミルクが差し出された。 「分かってて起きないなら尚悪いっつの」 母さんはそう言いながら僕の頭をこつんと叩く。 「そうそう、君は毎朝『海棠の眠り未だ足らず』といった風情ですからねえ」 ばさり、と新聞の陰からからかう様に父さんが言う。 「…それって美人の寝起きの形容じゃなかった?」 「おや、古文は苦手かと思っていましたが、勉強が進んでいるようですね。いい事です」 よしよし、と今度は父さんに頭を撫でられる。 目の前に次々と並べられてゆく皿を見て僕は目を丸くする。 「あはは、何このご馳走。朝から贅沢すぎじゃない?」 「いいのよ、なんだか今朝は早く目が覚めちゃったんだもの」 「君はもっと栄養つけたほうがいいです。ほら残さず食べなさい」 「過保護だなあ」 「今日だけよ」 「そうそう。君の早起きのご褒美という事にでもしておきなさい」 「そうよ、早く食べちゃいなさい」 鼻を赤くした母さんがそれでも笑いながら言う。 「今日はまた一段といい天気ですねえ…」 誤魔化すように父さんが窓に目をやる。 誰も何も言わない。 本当に言いたい事は、もうお互いに分かっているから、泣きそうになるのは朝の眩しい光の所為。そういうことにしてしまおう。 僕が生まれてきた日も、きっとこんな天気だったに違いない。 覚えてなんかいないけど、何故かそんな事を思った。 『この子は18まで生きられないかも知れない・・・』 生まれつき身体の弱かった僕の、最後の呪縛。 昨日は僕の18回目の誕生日、だった。 ◇ つづきます
多すぎる朝食をゆっくりと食べて身支度を整えて玄関を出れば、眩しい光の中、誰よりも大切な2人がそこにいた。 「あっ、先輩、おはようございます。今チャイム鳴らそうかと思ってた所ですよ」 「めっずらしいな。どうした、お前がちゃんと出てくるなんて」 「譲子ちゃんがくれた時計のおかげで今朝は自分で起きれたんだよ」 そう笑って答えれば、譲子ちゃんの顔がぱあっと明るくなった。 「ほんとですか!?良かった!凄いですよ先輩、頑張りましたね!!」 将臣くんはからかうように笑いながら言う。 「おいおい、マジかよ。明日は雨だな」 「ああ、もう!将臣くん達までそういう反応なの? うちの親なんか奇跡だって大喜びして朝からご馳走攻めだよ。お腹一杯で苦しいや」 いつもの朝、いつもの彼等、いつもの通学路。 僕はまだここに自分がいるのがまだ実感できていなくて、彼等の少し後ろからゆっくりとついてゆく。 道の上は桜の花びらで薄紅色に染められている。 見上げれば、時を過ぎた桜の並木から絶え間なく花びらが零れ落ちている。 「今年は花が咲くのが早かったから、もう葉桜ですね」 譲子ちゃんが桜を見上げながら残念そうに言う。 「でも俺こっちの方が結構好きなんだけどな」 「兄さんの感覚って変だよな」 「そうか?だってこれって桜餅の葉っぱなんだろ?花見ても腹膨れねえし」 「ふふ、将臣くんらしいなあ。そう…葉桜、か」 花はいつか散る はらはらと音もなく 僕はいつからか 散ることだけを、ずっと考えていた 花の盛りに散ることをだけ 花は散る 散って―― 葉を、茂らせる 「うん…僕も好きになりそうかな」 舞い散る花びらの中でお下げの髪を揺らして譲子ちゃんが振り返る。 ひときわ鮮やかな新緑の色を映したかのような緑の瞳が僕を見上げる。 「ええー、先輩までそんな事を言わないで下さいよ」 「ほら見ろー!こいつも食い気のタイプだぜ」 そう言って笑った将臣くんの顔は一点の曇りも無い光る青空のようで。 「もうっ…はいはい、分かりました。桜餅又作ります。それでいいですね」 「おっ、俺はあのつぶつぶのな。もち米で包んであるような」 「道明寺?」 「名前までは知らねえけど」 「桜餅って関東と関西で違うんだよ…先輩はどっちが好きですか?」 「やっぱ、お前もつぶつぶだよな?」 2人が立ち止まって、こちらを見つめる。 花降る朝の光に包まれて、僕を待っている。 僕はその隣に並ぶ為に、足を踏み出す。 「どっちも、好き」 夢見た春を過ぎて 青空と新緑の季節へと 新しい、第一歩を ◇ おわりです のぞみの一人称って久しぶりに書いたかも。
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